金子FP事務所
早期退職・資産寿命シミュレーション

FIREしたら、今度は相場に振り回される?――資産取り崩しと「収入分散」を考える

会社員時代、「会社に縛られずに生きたい」と思ったことはありませんか。

私自身、50代で会社を早期退職しました。

会社員でなくなれば、時間の使い方も、仕事の選び方も、自分で決められる。

それは確かに大きな自由です。

一方で、会社を辞めた後には、それまでとは別の問題が出てきます。

「これからの生活費を、どこから得るのか」

という問題です。

会社員時代は「会社」に依存している

会社員の生活を単純化すると、

会社 → 給料 → 生活

という構造になっています。

会社で働くことによって毎月の給与を得て、その給与から生活費を支払う。

もちろん、実際には預貯金や投資、年金などもありますが、現役時代の最大の収入源が給与である人は多いでしょう。

だからこそ、

「会社を辞めたい」

「会社に人生を左右されたくない」

と考える人がいます。

では、会社を辞めてFIREしたらどうなるでしょうか。

FIREすると「金融資産」が生活を支える

FIRE後の生活を単純化すると、

金融資産 → 運用・取り崩し → 生活

という構造になります。

会社からの給与がなくなる代わりに、これまで築いてきた金融資産から生活費を生み出していく。

ここで一つの問題が生まれます。

相場が下落しても、生活費は必要だということです。

例えば、毎月20万円の生活費が必要だとします。

相場が好調なときなら、資産を売却して20万円を確保することに、それほど抵抗はないかもしれません。

しかし、資産価格が大きく下落したときにも、同じように20万円を取り崩さなければならないとしたらどうでしょう。

「今は売りたくない」

と思っても、生活費は待ってくれません。

積立投資と取り崩しは、似ているようで違う

積立投資では、毎月10万円を投資するとします。

価格が高ければ少ない口数を買い、価格が下がれば多くの口数を買うことになります。

つまり、

価格下落 → 安くたくさん買える

という構造です。

ところが、取り崩しでは逆になります。

毎月10万円を取り崩す場合、価格が高ければ少ない口数を売り、価格が下がれば多くの口数を売ることになります。

つまり、

価格下落 → 安くたくさん売る

ことになります。

もちろん、定額取り崩しそのものが悪いわけではありません。

毎月の生活費を安定させるという意味では、とても分かりやすい方法です。

ただし、退職直後などに大きな下落が起きると、その後の資産残高に大きな影響を与える可能性があります。

これは「収益率の順序リスク(シーケンス・オブ・リターン・リスク)」と呼ばれる考え方です。

同じような長期平均リターンでも、下落が最初に来るのか、後に来るのかによって、取り崩しを続けた場合の結果が変わり得ます。Morningstarも、退職後の最初の数年間の運用結果が特に重要になると説明しています(英語の出典:Morningstar "Sequence of Returns: Part II")。

「どう取り崩すか」だけではなく、「どれだけ取り崩さなくていいか」

ここで、少し視点を変えてみます。

資産取り崩しについて考えると、多くの場合、

「毎月いくら取り崩せばいいのか?」

「何%なら資産が長持ちするのか?」

と考えます。

もちろん、それも重要です。

しかし、もう一つ考えられることがあります。

「そもそも、金融資産から取り崩す金額を減らせないか?」

ということです。

例えば、

  • 年金
  • 労働収入
  • 金融資産
  • その他の事業収入

など、複数の収入源を組み合わせる方法です。

「収入分散」という考え方

例えば、老後の生活費が月30万円必要だとします。

これをすべて金融資産から取り崩すのではなく、

  • 年金:15万円
  • 仕事:10万円
  • 資産:5万円

という形にする。

もちろん、実際の金額は人によって違います。

重要なのは、

一つの収入源だけに生活を依存しない

という考え方です。

これは「一番効率のいい収入源を探す」という話ではありません。

むしろ、

どれか一つの収入が減っても、生活全体がすぐに破綻しない構造をつくる

という考え方です。

「月10万円働く」は、単なる10万円ではない

例えば、FIRE後に月10万円だけ仕事をするとします。

年間では120万円です。

単純に考えれば、

年間120万円の収入

です。

しかし、資産取り崩しの観点から見ると、意味はもう少し大きくなります。

年間120万円の収入があれば、その分だけ金融資産からの取り崩しを減らせます。

相場が好調なときは、資産を取り崩しても問題を感じないかもしれません。

しかし、相場が大きく下落しているときには、

「今は売りたくない」

という判断ができます。

仕事から一定の収入があれば、資産の売却を先送りする余地が生まれるからです。

つまり、

月10万円働くことは、月10万円を稼ぐだけではない。

「今は資産を売らなくてもいい」という選択肢を持つことでもある。

ここは、FIREを考えるうえで意外と重要な視点ではないでしょうか。

FIREは「まったく働かない」ことでなくてもいい

FIREというと、

「仕事をすべて辞めて、資産だけで生活する」

というイメージがあります。

もちろん、それも一つの選択肢です。

しかし、

資産+年金+少しの仕事

という形もあります。

例えば、週に数日だけ働く。

好きな仕事だけする。

講師や執筆など、自分の得意分野を仕事にする。

事業を小さく続ける。

こうした働き方なら、

「生活のために嫌な仕事を続ける」

のとは意味が大きく違います。

目指す状態は、

「働かなければ生活できない」

ではなく、

「働かなくても生活できる。でも、働いてもいい」

なのかもしれません。

本当の自由は「何にも依存しないこと」なのか

ここまで考えると、FIREについて少し違った見方ができます。

会社員時代は、

会社への依存

が大きかった。

FIRE後は、

金融資産への依存

が大きくなる可能性がある。

では、その間に、

複数の収入源を持つ

という選択肢があります。

年金がある。

少し仕事をする。

金融資産も持つ。

場合によっては事業収入もある。

こうした複数の柱を組み合わせれば、一つの収入源だけに生活を左右されにくくなります。

もちろん、収入源を増やせば安心できる、というわけではありません。

仕事には仕事のリスクがありますし、投資には投資のリスクがあります。

大切なのは、「どのリスクを取るか」ではなく、「一つのリスクにすべてを賭けない」という発想です。

資産運用のゴールは「増やすこと」だけではない

資産形成では、

「いくらまで増やせるか」

に目が向きがちです。

しかし、退職後は、

「どう使うか」

という問題が始まります。

さらにその先には、

「そもそも資産だけに生活を頼らなくてもいい仕組みをどう作るか」

という問題があります。

  1. 資産を増やす。
  2. 取り崩し方を考える。
  3. 収入源を分散する。
  4. 自分の意思で働くかどうかを決める。

この順番で考えてみると、FIREの意味も少し変わって見えてきます。

自由とは、何にも依存しないことではない。

依存先を一つにしないこと。

そんな考え方も、50代以降の人生設計にはあっていいのではないでしょうか。

取り崩し方や収入の分散を、自分の条件で整理したい方は、老後資金・資産寿命シミュレーションのページもご覧ください。

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金子英司(CFP®・FP1級)

金子FP事務所代表。28年間、営業・宣伝・マーケティングに携わり、50代で早期退職。資産運用と人生設計をテーマに、意思決定のための情報整理を発信しています。

※これは一般的な情報提供であり、個別の投資助言ではありません。

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